散歩もの

孤独のグルメと同じく 久住昌之と谷口ジローのコンビによる一冊。 こっちはもっとテーマが希薄な、日常のフラグメントな私小説っぽい感じ。 あと横溢する「東京人」のかすかな愛おしさとかすかな切なさ。 俺は好きだなあ。

いろんなところで主人公が飯をくう、 ただそれだけのマンガです。でもこれはいい!

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

「グルメマンガ」ではありません。 これはこれでB級グルメといえないこともないが、 そういうふうに構えちゃうとちょっとこの本の世界と違う。

なんというか「東京人」だ。 それなりにこだわりもあるし自分の感覚も持ってるが、 シャイだし、がっつかない。 何かにやたら熱くなるとか夢中になるとか、 そういうのにどこか醒めているところも常に持っている。 うまく言えないけど同じ東京人ならわかってくれると思う。
(この「東京人」感覚は、以前ムーンライダースの映画 「Passion Maniacs マニアの受難」 を観たときにも強く感じた)

主人公はいつもスーツのビジネスマンだけど、 「島耕作」的な世界とは真逆というか、対偶にある。
(島耕作って絶対に絶対に「東京人」じゃない)
むしろ本書は、島耕作の皮をかぶった「つげ義春」な世界かもしれない。

久住昌之によるストーリーは、 ペーソス、までもいかない、もっと淡いフラグメント的なものを 醸し出していて、なんとも滋味深い。 東京人のあなた、よければぜひ見てみてください。

短編集。

「人喰人種」 「北極王」 「樹木 法廷に立つ」 「タマゴアゲハのいる里」 「近づいてくる時計」 「九死虫」 「公衆排尿協会」 「あのふたり様子が変」 「禽獣」 「最後の伝令」 「ムロジェクに感謝」 「二度死んだ少年の記録」 「十五歳までの名詞による自叙伝」 「瀕死の舞台」

書名にもなっている「最後の伝令」は、 (ああ、陳腐な表現だけど) 「ミクロの決死圏」ネタを筒井風に料理した感じで、 「小隊長」から「エロチック街道」あたりの筒井作品も割と好きな僕には わるくなかった。

が、最後にあたまをがんとやられたのが 「瀕死の舞台」

演劇場で老衰した役者が立てなくなってしまい、 寿命もわずか。ならばそのまま舞台に出し続けたほうが 本人の気力にもなって。 という、もういつ死ぬかわからない老人を交えた劇の興行の話。 途中で老人のモノローグになってから最後にいたるまで、 シンプルな話なんだけども、もともと役者を志していた著者の 演劇に対する熱くてあったかい気持ちの入りかた、 しかし冷静な客体としての報告者でもある文体、 そんなこんなで、短編なのに、なぜかわからないが 鳥肌がたって猛烈に感動した。なぜ感動しているのかよくわからないのだが。 エンターテインメントでもあり、 アバンギャルドでもあり、 クールでもありヒューマンでもあり、 まあそんなカタカナなど並べていないで、 個人的に2008年読んだもののベスト1候補はおそらくこの一編。

先日読んだ「累犯障害者 - 獄の中の不条理」 を書く前の、しかし獄中記である「獄窓記」の後記になる一冊。 出所してからの鬱、迷い、そして「獄窓記」を書き出版し、 しだいに虞犯精神障害者のケアはじめアクションに動いていくあたりを記されている。

内容は重いのだが、自分の迷いや弱さも含めてしっかりした筆致で進めるそれが 一種の「強い重さ」になって、最後まで一気に読ませる。 またひとつの私小説としてもしっかりと味わえる。ぜひお勧めの一冊。

日本独自の文化らしいラブホテルについて調べてまとめた本。 まじめかつ面白くまとめてある一冊。

いろいろ面白かった。

渋谷の円山町にラブホテルが多いのは、 ダム建設で村が水没した岐阜は白川村のひとたちが、 上京して渋谷近辺で四畳半旅館を営み始めたのが起源。 いまでも名前に川のつくホテルが円山町に多いのはその名残。

僕は自動車で(ときに一人で)どんどん旅行するのが好きなのだけど、 「クルマでぱっと入って、寝るだけ寝れる」 という、本来の「モーテル」が日本にはないなあと思ったら, 法で規制されているのか。 ワンルーム・ワンガレージ式のモーテルは禁止されているのだそうだ。 自動車旅行者からするととても便利なんですがね。
ただ、いちおうホテルとしての敷地があり、受付があって、 その上で敷地内に ワンルーム・ワンガレージ式の建物が並んでいるぶんにはいいらしい (僕もこの手のなら覚えている - ラブホテル利用のほうにおいて)。

著者はまだ若い可愛い女性で、大学の卒論として研究を始めたようだ。 のびのびと書いていてなかなか良い。 (ちょっとヘタウマなイラストも彼女自筆)
1979年うまれらしく、僕のひとまわり下になる。 ラブホテルのネーミングスキームについて考察しているあたりで、 80年代後期から90年代ぐらいにかけて、 やたら西暦な名前(1987とかHotel 1992とか) が頻出した一時期がこの本では触れられていないのだが、 ちょうど世代の違いで、ぽっかり抜けてしまったのかな? と思った。それとも東京だけの現象だったのかな?

新風営法が発足したのが1985年なので、 それに伴い違法となり廃止された、大昔のラブホテルの象徴であった「回転ベッド」は、 残念ながら1967年生まれの僕は現物をみたことがない。

ほかにも、 ホテルとしてはフロントでの人間の介在が法的には必要なので、 自動支払機の存在はとりようによってはグレーなこと。 僕の年代だと、 終わりごろに電話をかけ・かかってきてフロントで清算、がまだおおく、
(あっさっき終わりました! とかいっちゃうんだよね)
部屋の写真とかボタンが一緒で押すとキーが出てくるタイプのは まだ半分ぐらいだったかな。 たしかにエアー・シューターもいくつかみかけたが、 ボタンをおしても気配がせず、 そしたらオバサンがすいません壊れてましてねと ピンポンしてやってくるのもありがちなパターンだったかも。 ばあさんが四畳半に布団を敷きにくるしょうもない クラシックなやつも滋味深くてなつかしい。

ワンルーム・ワンガレージのタイプも日本の田舎ドライブの風物だけど、 一度、消灯後に空気が霧のようになまぐさくなり、 室内の音や鏡などがなにかヘンで、 霊感などまったくない私でも「これは室内に絶対何かいる」 と100%確信をもったことがあり、それ以来いい印象がない。

逆に「これからのラブホテル」像もおもしろい。
景色や食事や、海をみながらふたりでゆったりお風呂とか、 ゲームとか、もちろんセックスもするだろうけど、 ふたりでたのしい時間をすごすもろもろのアメニティをたのしむ場所という 位置づけはたのしそうだし、 いってきた若い子が、きょうはここ行ってきました! と、PCブログとかケータイブログとか、はたまたmixiとかから トラックバックやブックマークして盛り上がるとか、 そういう方向もすごくたのしそうだ。(はいはいリア充ですね)

そんなこんなで、ぱっと読めるのでひまつぶしにもおすすめ。

これも二十年ぶりぐらいに読んだ作品群。
所収作品は「急流」「問題外科」「最後の喫煙者」「老境のターザン」 「こぶ天才」「ヤマザキ」「喪失の日」「平行世界」「万永元年のラグビー」 で、いずれも懐かしい。
むかしも同様の作品群が収められたものを読んだ気がするのだが、 以前でていた短編集の題名を変更した一冊なのか、 それとも新たに編まれたアンソロジーなのかは、わからない。

なかでも好きなのは 「こぶ天才」「ヤマザキ」「喪失の日」「万永元年のラグビー」 あたりかな。

これを最初に読んだのは二十数年前。 やっぱり面白い。一気に読了。最後の一行はいまだに月に一回ぐらいは思い出す。

モサドのスパイとして長期エジプトにいたことで有名なウォルフガング・ロッツによる、 スパイになるHOWTOの一冊。

小気味よくユーモアある文章で、一気に読める。 ひまつぶしにぜひ。

完全失踪マニュアル

元探偵業の経歴を持つ筆者による失踪HOWTO本。
集中的な気分転換という位置づけで短期的に軽い失踪をこころみるのも 却って人生のプラスになるのでは、というケースから、本格的な失踪、 さらには触法領域の向こうにあるケースまで、 勧めるのでもなく 勧めないのでもなく、 実例をあげて こんなやり方だとこういうメリット・デメリット・リスクがありますねー と読みやすく淡々と解説。

単にちょっとおもしろい読み物として読みとばすもよし。 本当に悩みが限界に達しているとき、 いざとなりゃこんな手もあるんだぜ、と気持ちにマージンを持たせるもよし。 さらに本当にやばいなら実践するもよし。 人生のリセットというポジティブな行為なので、 自殺を考えるぐらいなら、たとえばこういう方向でどうぞ。

累犯障害者

テーマは重いがしっかりと書かれた本。

著者はかつて国会議員を二期すごし、 そののち不祥事を起こして一年半の実刑を受け刑務所に収監されていた経歴をもつ。
そのあいだ担当していたのが、障害者の受刑者のケアの仕事。 知的障害者、聾唖者、etc.. 彼らには犯罪が犯罪なのかわからないもの、 あるいは一般社会が暮らすには厳しすぎ、(判断能力不足も手伝って) 再度の刑務所暮らしをどうしても志望してしまう、 刑務所以外に受け入れてくれる場所がない、 そんな理由で出所しても再び戻ってきてしまうものも多い。 そんな「累犯障害者」をめぐる状況のルポルタージュ。
お気軽にサマライズするのは難しいので、目次を引用します。

序章 安住の地は刑務所だった - 下関駅放火事件
第一章 レッサーパンダ帽の男 - 浅草・女子短大生刺殺事件
第二章 障害を食い物にする人々 - 宇都宮・誤認逮捕事件
第三章 生きがいはセックス - 売春する知的障害者女性たち
第四章 閉鎖社会の犯罪 - 浜松・ろうあ者不倫殺人事件
第五章 ろうあ者暴力団 - 「仲間」を狙いうちする障害者たち
終章 行き着く先はどこに - 福祉・刑務所・裁判所の問題点

著者の調査と筆致は誠実でしっかりとしたもので、 かくも悲惨な、かつ一般社会やマスコミがタブーとして触れたがらない 無常な領域を、ブレや迷いなく記している。 ゴシップ風味やお涙頂戴浪花節的な気分になることなく、 感銘をうけつつ堂々と読み進めることができる。

そう、この本に書かれている内容には、 確かに一見ゴシップ的なトピックも含まれている。 でもそういう興味で読み始めたっていいだろう。 たいへん意欲的な一冊だとおもう。 これはおすすめだ。