Mac OS X に標準添付の開発環境、に含まれている Quartz Composer の解説書。
著者は未来派図画工作の中のひと 鹿野氏。 おそらく日本でのQC第一人者。というかほかにいるのかな。

Quartz Composer Book ―クォーツ コンポーザー ブック―

アンドレ・ブルトン、マクルーハンといったひとびとの言葉を引用しつつ、 チュートリアル的にQCでどんなものが作れるかを解説していく、 とてもきれいな本。ちょっと高いかもしれないけど満足。 むしろ安っちい装丁のQC本など出たらそれはアートに対する冒涜だ。

内容は、僕にとってはそう新しい知見はなかった。 というか僕は未来派図画工作の作品を解析して Quartz Composer に何ができるのかしらべて覚えていったので。
でも保存すべき記念品として一冊は所有すべき。

Quartz は, OS X の中でうごめく、グラフィックスの高機能処理レイヤ。 その仕組みを GUI であらわにし、いじれるようにしたものが Quartz Composer.
たとえば静止画、動画、音声、MIDI, RSS といった入力を、画像フィルタや 動画フィルタ、演算モジュール、JavaScriptモジュールなど いろんな処理要素でGUIでつなぎ、リアルタイム処理できる。 Yahoo Pipes みたいな感じで編集といえばわかりやすいだろうか。
そしてそれをスクリーンセーバにできる。 あるいはiTunesのエフェクトに。 あるいはDVストリームに落としてビデオのノンリニア編集に立ち上げて。 あるいはクラブでライブパフォーマンスで映写して。

Quartz Composer 以前、1990年代前半ぐらいに、 Silicon Graphics Inc. のグラフィック・ワークステーションで、 僕はこういう3DCGのビジュアルプログラミング環境に出会ってはいる。
目の前で、フローチャートのごとく処理要素をGUIでならべて、 マウスで処理の流れをつないで、というインタフェースなんて、 生まれてはじめて見るもので、尻から鼻血がでるぐらい興奮したが、 とはいえ数千万以上ハードに積まないとまともに動かない代物だった。
ちなみに当時の僕の愛機 SGI IRIS Indigo XS24 は、R3000 33MHz で 16MB だった。 それでも割と上位機種だったので 24bit フレームバッファだったんだよ。 ハードウェアのテクスチャマッピング支援は無かったので、 カラーマップを貼付けるとほとんど固まってしまっていたが。
でもいまや、近くのヤマダ電気で何かマックを買ってくれば、 当時米国国防総省にSGIが納品していたクラスの3DCG表現環境が 手にはいるわけだ。

本書はおそらくQuartz Composerに関して日本語で書かれた唯一の本だろう。
で、自分勝手をいうと、あまりもうこういう本は増えてほしくない。
Quartz Composerというすばらしいものが あまり広がってしまうと悔しいからだ。
森の中で魔法の石を見つけたことを独りじめしたい、 蜘蛛の糸にぶらさがるのはオレだけだ! という、僕の心の非常な狭さである。
最近は、僕の飛び道具は、シンセや音符やエフェクタや作曲やDAWよりも、 むしろQuartz Composerだったりする。

というわけで、 音や画像、動画、アート、3DCGに興味のあるかたはぜひ一見の価値あり。 QCを知らないと、一刻一刻、人生を損しますよ。

なぜ、賢い人が集まると愚かな組織ができるのか - 組織の知性を高める7つの条件

組織論ものの本のなかではけっこう出色だと思う。具体的な成功・失敗事例、示唆など読み応えあり。 ちょっとおすすめ。

散歩もの

孤独のグルメと同じく 久住昌之と谷口ジローのコンビによる一冊。 こっちはもっとテーマが希薄な、日常のフラグメントな私小説っぽい感じ。 あと横溢する「東京人」のかすかな愛おしさとかすかな切なさ。 俺は好きだなあ。

いろんなところで主人公が飯をくう、 ただそれだけのマンガです。でもこれはいい!

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

「グルメマンガ」ではありません。 これはこれでB級グルメといえないこともないが、 そういうふうに構えちゃうとちょっとこの本の世界と違う。

なんというか「東京人」だ。 それなりにこだわりもあるし自分の感覚も持ってるが、 シャイだし、がっつかない。 何かにやたら熱くなるとか夢中になるとか、 そういうのにどこか醒めているところも常に持っている。 うまく言えないけど同じ東京人ならわかってくれると思う。
(この「東京人」感覚は、以前ムーンライダースの映画 「Passion Maniacs マニアの受難」 を観たときにも強く感じた)

主人公はいつもスーツのビジネスマンだけど、 「島耕作」的な世界とは真逆というか、対偶にある。
(島耕作って絶対に絶対に「東京人」じゃない)
むしろ本書は、島耕作の皮をかぶった「つげ義春」な世界かもしれない。

久住昌之によるストーリーは、 ペーソス、までもいかない、もっと淡いフラグメント的なものを 醸し出していて、なんとも滋味深い。 東京人のあなた、よければぜひ見てみてください。

短編集。

「人喰人種」 「北極王」 「樹木 法廷に立つ」 「タマゴアゲハのいる里」 「近づいてくる時計」 「九死虫」 「公衆排尿協会」 「あのふたり様子が変」 「禽獣」 「最後の伝令」 「ムロジェクに感謝」 「二度死んだ少年の記録」 「十五歳までの名詞による自叙伝」 「瀕死の舞台」

書名にもなっている「最後の伝令」は、 (ああ、陳腐な表現だけど) 「ミクロの決死圏」ネタを筒井風に料理した感じで、 「小隊長」から「エロチック街道」あたりの筒井作品も割と好きな僕には わるくなかった。

が、最後にあたまをがんとやられたのが 「瀕死の舞台」

演劇場で老衰した役者が立てなくなってしまい、 寿命もわずか。ならばそのまま舞台に出し続けたほうが 本人の気力にもなって。 という、もういつ死ぬかわからない老人を交えた劇の興行の話。 途中で老人のモノローグになってから最後にいたるまで、 シンプルな話なんだけども、もともと役者を志していた著者の 演劇に対する熱くてあったかい気持ちの入りかた、 しかし冷静な客体としての報告者でもある文体、 そんなこんなで、短編なのに、なぜかわからないが 鳥肌がたって猛烈に感動した。なぜ感動しているのかよくわからないのだが。 エンターテインメントでもあり、 アバンギャルドでもあり、 クールでもありヒューマンでもあり、 まあそんなカタカナなど並べていないで、 個人的に2008年読んだもののベスト1候補はおそらくこの一編。

先日読んだ「累犯障害者 - 獄の中の不条理」 を書く前の、しかし獄中記である「獄窓記」の後記になる一冊。 出所してからの鬱、迷い、そして「獄窓記」を書き出版し、 しだいに虞犯精神障害者のケアはじめアクションに動いていくあたりを記されている。

内容は重いのだが、自分の迷いや弱さも含めてしっかりした筆致で進めるそれが 一種の「強い重さ」になって、最後まで一気に読ませる。 またひとつの私小説としてもしっかりと味わえる。ぜひお勧めの一冊。

日本独自の文化らしいラブホテルについて調べてまとめた本。 まじめかつ面白くまとめてある一冊。

いろいろ面白かった。

渋谷の円山町にラブホテルが多いのは、 ダム建設で村が水没した岐阜は白川村のひとたちが、 上京して渋谷近辺で四畳半旅館を営み始めたのが起源。 いまでも名前に川のつくホテルが円山町に多いのはその名残。

僕は自動車で(ときに一人で)どんどん旅行するのが好きなのだけど、 「クルマでぱっと入って、寝るだけ寝れる」 という、本来の「モーテル」が日本にはないなあと思ったら, 法で規制されているのか。 ワンルーム・ワンガレージ式のモーテルは禁止されているのだそうだ。 自動車旅行者からするととても便利なんですがね。
ただ、いちおうホテルとしての敷地があり、受付があって、 その上で敷地内に ワンルーム・ワンガレージ式の建物が並んでいるぶんにはいいらしい (僕もこの手のなら覚えている - ラブホテル利用のほうにおいて)。

著者はまだ若い可愛い女性で、大学の卒論として研究を始めたようだ。 のびのびと書いていてなかなか良い。 (ちょっとヘタウマなイラストも彼女自筆)
1979年うまれらしく、僕のひとまわり下になる。 ラブホテルのネーミングスキームについて考察しているあたりで、 80年代後期から90年代ぐらいにかけて、 やたら西暦な名前(1987とかHotel 1992とか) が頻出した一時期がこの本では触れられていないのだが、 ちょうど世代の違いで、ぽっかり抜けてしまったのかな? と思った。それとも東京だけの現象だったのかな?

新風営法が発足したのが1985年なので、 それに伴い違法となり廃止された、大昔のラブホテルの象徴であった「回転ベッド」は、 残念ながら1967年生まれの僕は現物をみたことがない。

ほかにも、 ホテルとしてはフロントでの人間の介在が法的には必要なので、 自動支払機の存在はとりようによってはグレーなこと。 僕の年代だと、 終わりごろに電話をかけ・かかってきてフロントで清算、がまだおおく、
(あっさっき終わりました! とかいっちゃうんだよね)
部屋の写真とかボタンが一緒で押すとキーが出てくるタイプのは まだ半分ぐらいだったかな。 たしかにエアー・シューターもいくつかみかけたが、 ボタンをおしても気配がせず、 そしたらオバサンがすいません壊れてましてねと ピンポンしてやってくるのもありがちなパターンだったかも。 ばあさんが四畳半に布団を敷きにくるしょうもない クラシックなやつも滋味深くてなつかしい。

ワンルーム・ワンガレージのタイプも日本の田舎ドライブの風物だけど、 一度、消灯後に空気が霧のようになまぐさくなり、 室内の音や鏡などがなにかヘンで、 霊感などまったくない私でも「これは室内に絶対何かいる」 と100%確信をもったことがあり、それ以来いい印象がない。

逆に「これからのラブホテル」像もおもしろい。
景色や食事や、海をみながらふたりでゆったりお風呂とか、 ゲームとか、もちろんセックスもするだろうけど、 ふたりでたのしい時間をすごすもろもろのアメニティをたのしむ場所という 位置づけはたのしそうだし、 いってきた若い子が、きょうはここ行ってきました! と、PCブログとかケータイブログとか、はたまたmixiとかから トラックバックやブックマークして盛り上がるとか、 そういう方向もすごくたのしそうだ。(はいはいリア充ですね)

そんなこんなで、ぱっと読めるのでひまつぶしにもおすすめ。

これも二十年ぶりぐらいに読んだ作品群。
所収作品は「急流」「問題外科」「最後の喫煙者」「老境のターザン」 「こぶ天才」「ヤマザキ」「喪失の日」「平行世界」「万永元年のラグビー」 で、いずれも懐かしい。
むかしも同様の作品群が収められたものを読んだ気がするのだが、 以前でていた短編集の題名を変更した一冊なのか、 それとも新たに編まれたアンソロジーなのかは、わからない。

なかでも好きなのは 「こぶ天才」「ヤマザキ」「喪失の日」「万永元年のラグビー」 あたりかな。

これを最初に読んだのは二十数年前。 やっぱり面白い。一気に読了。最後の一行はいまだに月に一回ぐらいは思い出す。

モサドのスパイとして長期エジプトにいたことで有名なウォルフガング・ロッツによる、 スパイになるHOWTOの一冊。

小気味よくユーモアある文章で、一気に読める。 ひまつぶしにぜひ。